樹木調査(オオムラサキ成虫の餌である樹液を出す樹木の調査)
樹木調査の主な目的は、成虫になったオオムラサキの好む樹液を出す樹木が繁殖予定地周辺でどれくらいの密度で生息しているかを調べることである。
副次目的として、植林した樹木(針葉樹)以外の広葉樹がどの程度 C(炭素)やN (窒素)を吸収しているかを調べるため、学校林内での二酸化炭素同化量、窒素同化量の調査、分析も行った。
調査範囲は学校林内の天然広葉樹林地域(学校林内の0.8 %に相当)とし、その数値から材積と炭素貯蔵量を概算算出した。
調査初年度の2009 年は、手法としては広葉樹林から 30m 四方の区域を設定し、胸高直径と樹高測定により材積を調査し、1haあたりの材積を算出した。
また、電動ドリルによる樹木のサンプリングを行い1ha あたりの炭素貯蔵量を算出した。
しかしこの調査方法では測定面積が小さく精度は低いと考え、2010 年はエゾエノキ植栽地付近の広葉樹林約 1ha 全域の調査を行った。 エゾエノキ植栽地や樹木調査エリア等、この調査では北広島森林ボランティア・メイプルの協力を得て測量や樹木調査を実施し、C・N 分析(炭素・窒素量)については酪農学園大学生態系物質循環研究室の保原達准教授の協力によりC/N分析機を用いて実施した。
調査期間は 2009 年 6 月から 2010 年 8 月までに胸高直径 8cm 以上の針葉樹を含む 1,838 本の樹木全てを調査した。
尚、この調査研究については、高文連理科研究発表大会奨励賞を受賞した。
調査実施日程
2009年6月 樹木調査292本
2009年7月 樹木調査606本
2010年3月 樹木調査562本 NCアナライザーサンプリング1回
2010年7月 NCアナライザーサンプリング2回
2010年8月 樹木調査378本
調査結果
樹木の本数、材積から広葉樹林帯の炭素貯蔵量を算出した。材積は「日本温室効果ガスインベントリ報告書」を参照し、バイオマス拡大係数地上部地下部比率、容積密度によって算出した結果は次の通りである。
調査本数 1838(本)
材積 359.95(㎥)
炭素貯蔵量 142.22(t-C)
採集した広葉樹 20 本、針葉樹 4 本の系 24 種 のサンプル(Table 1、Graph 1、Graph 2)から、 炭素・窒素濃度(含有率)を検出した結果としては炭素濃度は 45 ~ 49 %で大差はなかった。 窒素濃度についても 24 種中 23 種が 0.13 ~ 0.39 %であったが、ニセアカシアだけはドリルのサンプリング時にも大変固かったことや、学校林入り口のニセアカシアで作ったゲートが何十年も腐らずに使用されていることもこの木の特性が表れていると考えられる。
【学校林における樹木調査の結果】
【学校林広葉樹林の樹種別本数・材積・炭素除増量(%)】
【樹種別 窒素・炭素含有率(%)】
【 この研究による受賞履歴 】
平成22年度 第49回全道高等学校理科研究発表大会
学校林の炭素貯蔵機能調査 ~第2報~ 奨励賞
発表生徒 北海道札幌南高等学校科学部 第2学年 山本拓海
科学部・学校林調査隊の思い出
学校林の設置から 100 年の節目に作成された 記念誌『造林育人~南高学校林100年の歩み』(学校林沿革史編纂委員会 2013)には、 調査活動に参加した科学部・学校林調査隊の卒業生が執筆した文章が掲載されている。以下では、記念誌に掲載されなかった文章を含め、記念誌作成の際に寄せられた全5 名の文章の中から、オオムラサキの放蝶計画に関して記述されている部分を抜粋し(原文のまま)、放蝶に対する生徒たちの思いや考え方を示した。
・学校林周辺には国蝶オオムラサキの生息場所がある。オオムラサキは、環境省のレッドデータブックでは、準絶滅危惧種に指定されている。 雑木林に生息する昆虫のシンボルとして有名であるが、個体数は減っているようである。将来生息できる環境が整えば、新たに生まれ変わった学校林の目玉として放蝶が可能になるかもしれない。そのための基礎調査を行った。(2006 年度卒、女子)
・データベースを作ることは地道な作業の連続であり、人の目を引くような華々しい結果がすぐに得られるわけではない。しかし、こうした努力が続けられるのは、たとえばオオムラサキが飛び交う自然を取り戻したいという理想への希求があるからこそであり、それこそが科学的な悦びの一つなのである。(2008 年度卒、男子)
・オオムラサキの放蝶を最終目標に、科学部では学校林について研究していて、私もそのメンバーのひとりでした。1 年生の春、部の先輩に勧められて春の散策会に参加したとき、先輩が学校林の地理などを詳細に把握しているのを知って、驚くとともにあこがれを感じ、私も他の人より学校林のことをたくさん知りたいと強く思いました。(2009 年度卒、女子)
・オオムラサキの研究に参加することになった私は、学校林の植生や昆虫相について高二の秋まで調査することになりました。調査方法は、 学校林にピットホールトラップを仕掛け、多時には一度に百匹以上、一夏の累計で一万匹以上の虫を捕まえ同定し、虫の種類を特定するというものです。生息している虫の種類によって、 その環境がどのようなものかを推測し、オオムラサキの天敵となる昆虫や放蝶できる環境かどうか調べました。元々、大の虫嫌いな私でしたので、何度も何度も悲鳴を上げる羽目になり、 先輩方にはとても迷惑をかけてしまったと思います。この調査が一応の成果を上げ、オオムラサキの放蝶と定着が可能な環境である可能性が出て、学校林でのオオムラサキの放蝶及び定着計画の第一歩を踏み出すことになりました。環境面での放蝶条件については、何も解らずこの計画についてきた私の初めての喜びとなりました。(2009 年度卒、女子)
・オオムラサキはかつて北海道の多くの森林に生息していたと考えられているが、19 世紀以降の開拓や高度経済成長の際に森の多くが伐採されてしまった。そのため札幌周辺のオオムラサキの個体数も減少してしまったのではないか。それならば、かつては学校林においても数多く生息していたと考えることができる。そこで学校林から近距離の位置に生息するオオムラサキを放蝶しようという計画がある。しかし、ただ放蝶しても十分に繁殖できるとは限らない。そこで科学部は学校林の環境の状態についての調査やオオムラサキが繁殖できるような森づくりを、南高の一員として行っている。私の先輩方により学校林調査隊が結成され、科学部の学校林調査もより積極的に行うようになっている。幼虫の生育に必要なエゾエノキの苗木の栽培も現在進行中である。〔中略〕私は未来において、今より豊かになった学校林の中で、オオムラサキが優雅に飛翔することを確信している。(2011 年度卒、男子)
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